「角田裕毅は速い。でも、なぜか決勝では結果が出ない」F1を見ている日本人ファンなら、一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。
2025年のシーズン途中、角田は悲願のレッドブル昇格を果たしました。しかし、レッドブルのセカンドシートで結果を残すことはできず、2026年シーズンからはリザーブドライバーとしてチームに残留することになりました。
それでも、レッドブルで結果を残せなかったからといって、角田が速さを見せなかったわけではありません。レーシングブルズでの2024年シーズンは、予選でチームメイトを上回ることも多く、その速さを証明しています。
にもかかわらず、決勝になると順位を落とし、ポイントを逃すレースが続きました。その印象から「角田は決勝に弱い」「安定感がない」と評価されることも少なくありません。
しかし、その評価は本当にデータで裏付けられているのでしょうか?
本記事では、F1のリザルトデータをもとに、角田裕毅の「予選順位」と「決勝順位」の関係を数値で整理し、チームメイトや他ドライバーと比較しながら検証します。
単に「結果が出た・出なかった」で判断するのではなく、次の疑問にデータで答えることが目的です。
- 角田は予選でどれほど速かったのか
- 決勝で順位を落とす傾向は本当なのか
- なぜレッドブル昇格後に苦戦したのか
結論から言えば、「角田は不安定なドライバーだから結果が出なかった」という単純な話ではありません。
では、データは何を示しているのか。まずは、チームメイトとの予選・決勝の勝率から見ていきましょう。
角田とチームメイトの予選・決勝パフォーマンス比較
まずは、角田裕毅がF1に参戦した2021年から2025年シーズンまでを対象に、同一チーム内でのチームメイト比較という形で、予選と決勝の勝率を整理しました。
比較方法は以下の通りです。
- 対象:2021〜2025年シーズン
- 各ラウンドの予選順位・決勝順位をチームメイトと比較
- スプリント予選・スプリント決勝は除外
- 同一レース内で、角田がチームメイトより上位なら「勝ち」とカウント
この条件で算出したシーズン別の勝率が、以下の表です。
| シーズン | チームメイト | 予選勝率 | 決勝勝率 |
|---|---|---|---|
| 2021 | ガスリー | 4.55% (1勝21敗) | 22.73% (5勝17敗) |
| 2022 | ガスリー | 40.91% (9勝13敗) | 36.36% (8勝14敗) |
| 2023 | デ・フリース/リカルド/ローソン | 72.73% (16勝6敗) | 59.09% (13勝9敗) |
| 2024 | リカルド/ローソン | 75.00% (18勝6敗) | 54.17% (13勝11敗) |
| 2025 | ハジャー/フェルスタッペン | 4.12% (1勝23敗) | 8.33% (2勝22敗) |
初年度は苦戦、しかし2年目以降は急速に差を縮めた
F1参戦初年度の2021年シーズンは、経験豊富なピエール・ガスリーを相手に、予選・決勝ともに大きく負け越す結果となりました。ルーキーとしては厳しい数字ですが、これは想定内とも言えるでしょう。
しかし2022年シーズンになると状況は一変します。予選・決勝ともにガスリーとの差を大きく縮め、ほぼ互角と言えるレベルまで到達していました。この時点で、角田がF1で通用するスピードを持っていることは、データ上でもはっきり示されています。
2023・2024年は「予選で明確な優位性」を示した
特に注目すべきなのが、2023年と2024年シーズンです。この2年間、角田は予選においてチームメイトを明確に上回る勝率を記録しており、一発の速さという点では、チーム内で確実な優位性を築いていました。
チームメイトが複数入れ替わったシーズンであっても、予選では安定して上回っていることから、角田は「本来、一発の速さを持つドライバー」であることが、数字として裏付けられています。
角田は本当に「一貫性のない」ドライバーなのか?
角田裕毅はこれまで、「レースごとの波が大きい」「一貫性に欠ける」と指摘されることが少なくありません。ニュース記事などでも度々見かけたように、レッドブルのモータースポーツ・アドバイザー(2025年で退任)であるヘルムート・マルコも、角田に対して「一貫性」を求める発言をしてきました。
では、マルコが言う「一貫性」とは、具体的に何を指していたのでしょうか。リタイアせずに安定した走りを続けることなのか。それとも、予選や決勝で常に速さを維持することなのか。
英語圏の記事を見ると、「consistency(一貫性)」という言葉に加えて、「continuity(継続性)」や「stability(安定性)」といった表現が頻繁に使われています。では、これらの言葉は実際にどのような状態を意味しているのでしょうか。具体的に、何ができれば「一貫性がある」と評価されるのかが曖昧なままでは、角田への評価も感覚的なものになってしまいます。
そこで本章では、まず「角田に求められてきた一貫性」を明確に定義したうえで、角田は本当に「一貫性のないドライバー」だったのかをデータで検証していきます。
本記事における「一貫性」の定義
本記事では、角田に求められてきた「一貫性」を、次の2点に定義します。
- 予選で毎回Q3(トップ10)に進出すること
- 決勝でポイントを継続して獲得すること
まず、予選でQ3に進出することについてです。グリッド上位からスタートできれば、ポイントを獲得できる確率は自然と高くなります。また、戦略面でも無理なギャンブルをする必要がなく、展開を比較的予測しやすくなります。
一方で、後方からのスタートになると、ポイントを狙うためにはリスクを伴う戦略を選ばざるを得ません。セーフティカーや天候といった不確定要素に頼る場面も増え、結果として順位の振れ幅も大きくなります。
次に、決勝でポイントを毎レース獲得することです。これはチャンピオンシップ争いやコンストラクターズランキングにおいて、非常に重要な要素です。特に中団から下位チームにとっては、ポイント獲得のチャンス自体が限られており、1ポイントでも持ち帰ることの価値は大きいと言えます。
一方、レッドブルではマックス・フェルスタッペンを支えるという明確な役割がありました。仮に角田が安定してポイントを獲得し、マクラーレンの得点を削ることができていれば、チャンピオン争いも違った結果になっていた可能性があります。そのため「結果を出し続けること」そのものが、求められる一貫性だったと考えられます。
各ドライバーの完走率で見る安定性(2023〜2025)
ここでは、直近3シーズン(2023〜2025年)のドライバーの平均順位と完走率を確認します。一貫性を評価する際には、「速さ」だけでなく、「レースを最後まで成立させ続ける能力」も重要です。参戦レース数が少ないルーキーの場合、1回のリタイアでも完走率に大きな影響が出るため、あくまで参考値として見てください。
角田裕毅の場合、決勝の平均順位は13位で、DNF(リタイア)率は8.57%です。中団勢としては、角田が特別リタイアの多いドライバーではないことがわかります。
注:DNF = Did Not Finish(リタイア)、DNS = Did Not Start(スタートせず)、DSQ = Disqualified(失格)
| ドライバー | 参戦レース数 | 平均順位 | DNF率(回数) | DNS率(回数) | DSQ率(回数) |
|---|---|---|---|---|---|
| ランド・ノリス | 70 | 5.4 | 1.43%(1) | 0.00% | 1.43%(1) |
| マックス・フェルスタッペン | 70 | 2.9 | 2.86%(2) | 0.00% | 0.00% |
| ジョージ・ラッセル | 70 | 6.4 | 5.71%(4) | 0.00% | 1.43%(1) |
| オスカー・ピアストリ | 70 | 6.6 | 5.71%(4) | 0.00% | 1.43%(1) |
| ルイス・ハミルトン | 70 | 7.2 | 7.14%(5) | 0.00% | 2.86%(2) |
| ニコ・ヒュルケンベルグ | 70 | 12.9 | 7.14%(5) | 1.43%(1) | 2.86%(2) |
| イサック・ハジャー | 24 | 11.8 | 8.33%(2) | 0.00% | 0.00% |
| シャルル・ルクレール | 70 | 6.5 | 8.57%(6) | 1.43%(1) | 2.86%(2) |
| ピエール・ガスリー | 70 | 12.8 | 8.57%(6) | 1.43%(1) | 1.43%(1) |
| ランス・ストロール | 70 | 12.9 | 8.57%(6) | 4.29%(3) | 0.00% |
| 角田裕毅 | 70 | 13.0 | 8.57%(6) | 1.43%(1) | 0.00% |
| カルロス・サインツJr | 69 | 8.5 | 8.70%(6) | 2.90%(2) | 0.00% |
| ヴァルテリ・ボッタス | 46 | 14.9 | 10.87%(5) | 0.00% | 0.00% |
| オリバー・ベアマン | 27 | 11.6 | 11.11%(3) | 0.00% | 0.00% |
| フランコ・コラピント | 27 | 15.2 | 11.11%(3) | 3.70%(1) | 0.00% |
| フェルナンド・アロンソ | 70 | 9.6 | 11.43%(8) | 0.00% | 0.00% |
| セルジオ・ペレス | 46 | 7.8 | 13.04%(6) | 0.00% | 0.00% |
| エステバン・オコン | 69 | 12.7 | 13.04%(9) | 0.00% | 0.00% |
| リアム・ローソン | 35 | 12.8 | 14.29%(5) | 0.00% | 0.00% |
| キミ・アントネリ | 24 | 9.8 | 16.67%(4) | 0.00% | 0.00% |
| アレクサンダー・アルボン | 70 | 12.7 | 20.00%(14) | 1.43%(1) | 0.00% |
| ガブリエル・ボルトレト | 24 | 14.3 | 20.83%(5) | 0.00% | 0.00% |
この表から、完走率は上位勢ほど高く、中団〜下位のドライバーはやや低くなる傾向が読み取れます。角田は中団グループの平均的な完走率に位置しており、「リタイアが多い」という印象はデータ上では、正しくないことがわかります。
予選における一貫性|Q3進出率という客観指標
一貫性は決勝結果や完走率だけで語れるものではありません。予選で安定してQ3に進出できるかどうかは、ドライバーが毎週末どれだけ高いパフォーマンスを再現できているかを示す、重要な指標です。
そこでここでは、直近3シーズン(2023年〜2025年)における各ドライバーのQ3進出率を比較し、予選における一貫性を確認します。Q3でタイムが記録されている場合を「1回の進出」としてカウントしています。
| ドライバー | レース参戦数(予選) | Q3進出率(回数) |
|---|---|---|
| マックス・フェルスタッペン | 70 | 92.9%(65) |
| ジョージ・ラッセル | 70 | 91.4%(64) |
| シャルル・ルクレール | 70 | 88.6%(62) |
| ランド・ノリス | 70 | 87.1%(61) |
| オスカー・ピアストリ | 70 | 84.3%(59) |
| ルイス・ハミルトン | 70 | 72.9%(51) |
| カルロス・サインツ | 68 | 72.1%(49) |
| フェルナンド・アロンソ | 70 | 70.0%(49) |
| イザック・ハジャー | 23 | 69.6%(16) |
| キミ・アントネッリ | 24 | 66.7%(16) |
| セルジオ・ペレス | 45 | 60.0%(27) |
| ピエール・ガスリー | 69 | 40.6%(28) |
| 角田裕毅 | 69 | 33.3%(23) |
| アレクサンダー・アルボン | 68 | 30.9%(21) |
| リアム・ローソン | 35 | 28.6%(10) |
| ニコ・ヒュルケンベルグ | 70 | 27.1%(19) |
| エステバン・オコン | 68 | 23.5%(16) |
| ランス・ストロール | 69 | 23.2%(16) |
| オリバー・ベアマン | 26 | 23.1%(6) |
| ガブリエル・ボルトレート | 23 | 21.7%(5) |
| バルテリ・ボッタス | 46 | 13.0%(6) |
| フランコ・コラピント | 27 | 3.7%(1) |
トップドライバーと中団勢の明確な差
データを見ると、マックス・フェルスタッペン(92.9%)、ジョージ・ラッセル(91.4%)、シャルル・ルクレール(88.6%)といったトップドライバーは、ほぼ毎戦Q3に進出しています。このクラスでは、予選パフォーマンスの再現性が非常に高く、「一貫性がある」という評価に疑いの余地はありません。
一方、中団チームのドライバーになるとQ3進出率は大きく下がります。これはドライバー個人の能力差だけでなく、マシン性能や週末ごとのコンディション変動が結果に直結しやすいためです。
角田裕毅のQ3進出率は33.3%
角田裕毅のQ3進出率は 33.3%(69戦中23回) です。数字だけを見ると、トップドライバーと比べて低く、「一貫性に欠ける」という印象を持たれるかもしれません。
ただし、角田は2023年〜2024年および2025年シーズン第2戦まで、レッドブルの姉妹チーム「レーシングブルズ(旧アルファタウリ)」から参戦していました。中団チーム所属ドライバーとしてこの数値を見ると、必ずしも極端に低いとは言えません。※2023〜2024年に限定してもQ3進出率は32.6%です。
実際、同じ中団グループと比較すると、ガスリー(40.6%)には及ばないものの、アルボン(30.9%)、ヒュルケンベルグ(27.1%)、オコン(23.5%)よりは高い水準にあります。
これらを踏まえると、角田のQ3進出率は中団グループの中で標準的、もしくはやや上位に位置しており、「予選で常に崩れるドライバー」と評価するのは、データ上適切ではありません。
予選順位と決勝順位の乖離を数値で可視化する
ここからは、角田裕毅を含む各ドライバーについて、予選および決勝の順位の「ばらつき」を数値で比較していきます。感覚や印象ではなく、データを用いて一貫性を検証するのが目的です。
検証方法
対象は直近3シーズン(2023年〜2025年)です。スプリント予選・スプリント決勝は分析から除外し、通常の予選と決勝のみを対象としています。
さらに、DNF(リタイア)、DNS(スタートせず)、DSQ(失格)の結果は除外し、実際に完走して順位が確定したレースのみを分析対象としました。
分析手順は以下の通りです。
- 2023年〜2025年の各ドライバーについて予選順位・決勝順位の平均値を算出
- あわせて、標準偏差(順位のばらつき)を算出
標準偏差は、0に近いほど順位が安定しており、数値が大きいほどレースごとの順位変動が大きいことを示します。
注意点(標準偏差を読む際の前提)
ここで、非常に重要な前提があります。それは、上位を走るドライバーほど標準偏差が大きくなりやすいという点です。理由はシンプルです。
上位ドライバーの場合
- ポールポジション付近からスタートすることが多い
- 接触や戦略ミスが起きると、一気に大きく順位を落とす可能性がある
下位ドライバーの場合
- もともと後方グリッドからのスタートが多い
- 上下に動ける順位の幅そのものが小さい
つまり、「標準偏差が大きい=不安定なドライバー」と単純に結論づけることはできません。
本記事では、こうした特性を踏まえたうえで、予選と決勝の平均順位・標準偏差の関係を読み解いていきます。
| ドライバー | ① 予選 平均順位 | ② 予選 標準偏差 | ③ 決勝 平均順位 | ④ 決勝 標準偏差 | ③−① 順位差 | ④−② 安定性差 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| フランコ・コラピント | 16.56 | 2.86 | 15.22 | 3.23 | -1.33 | +0.37 |
| マックス・フェルスタッペン | 3.14 | 3.29 | 2.90 | 3.39 | -0.24 | +0.10 |
| ヴァルテリ・ボッタス | 14.66 | 3.32 | 14.93 | 3.11 | +0.28 | -0.21 |
| ジョージ・ラッセル | 5.31 | 3.36 | 6.41 | 4.55 | +1.10 | +1.19 |
| シャルル・ルクレール | 5.10 | 3.48 | 6.46 | 5.61 | +1.36 | +2.13 |
| イサック・ハジャー | 9.67 | 3.64 | 11.79 | 4.58 | +2.13 | +0.93 |
| ガブリエル・ボルトレト | 13.96 | 3.82 | 14.25 | 4.06 | +0.29 | +0.24 |
| アレクサンダー・アルボン | 12.77 | 3.92 | 12.67 | 4.37 | -0.10 | +0.45 |
| オリバー・ベアマン | 13.70 | 3.93 | 11.56 | 4.05 | -2.15 | +0.12 |
| 角田裕毅 | 12.36 | 4.02 | 12.97 | 3.78 | +0.61 | -0.24 |
| フェルナンド・アロンソ | 9.04 | 4.02 | 9.64 | 4.80 | +0.60 | +0.78 |
| ニコ・ヒュルケンベルグ | 13.03 | 4.04 | 12.94 | 4.25 | -0.09 | +0.22 |
| エステバン・オコン | 13.62 | 4.17 | 12.70 | 4.35 | -0.93 | +0.17 |
| ランス・ストロール | 13.79 | 4.34 | 12.89 | 4.58 | -0.90 | +0.24 |
| ランド・ノリス | 4.79 | 4.47 | 5.44 | 5.51 | +0.66 | +1.04 |
| リアム・ローソン | 12.80 | 4.50 | 12.83 | 4.04 | +0.03 | -0.46 |
| ルイス・ハミルトン | 8.01 | 4.51 | 7.24 | 4.69 | -0.77 | +0.18 |
| オスカー・ピアストリ | 6.00 | 4.64 | 6.63 | 5.46 | +0.63 | +0.82 |
| ピエール・ガスリー | 12.67 | 4.72 | 12.77 | 4.62 | +0.10 | -0.10 |
| カルロス・サインツJr | 7.38 | 4.83 | 8.52 | 5.61 | +1.14 | +0.77 |
| キミ・アントネリ | 8.58 | 4.95 | 9.83 | 5.89 | +1.25 | +0.94 |
| セルジオ・ペレス | 9.17 | 5.55 | 7.83 | 5.96 | -1.35 | +0.41 |
平均順位が示す立ち位置
角田の平均順位を見てみると、以下の通りです。
- 予選平均順位:約12.4位
- 決勝平均順位:約13.0位
この数値から分かるのは、角田が常に中団グループのやや前〜後方を走り続けているドライバーだということです。
上位争いの常連というわけではなく、かといって下位に沈み続けているわけでもありません。良くも悪くも、極端に期待を上回ることも、大きく裏切ることも少ない順位帯に安定しているのが特徴です。
そしてこの傾向は、チームが変わっても大きくは変化していません。レッドブル移籍後も、平均順位の観点で見る限り、角田の立ち位置は概ね同じ水準にとどまっています。

標準偏差が示す「安定性」
角田の順位のばらつきを示す標準偏差を見ると、次の通りです。
- 予選標準偏差:約4.0
- 決勝標準偏差:約3.8
この数値は、角田の順位がおおよそ「平均±4位」の範囲に収まっていることを意味します。言い換えれば、角田は毎レース、12位前後を中心に数ポジションの幅で走っており、順位の再現性が比較的高いドライバーだといえます。少なくともデータ上は、レースごとに極端な上下動を繰り返すような「不安定なドライバー」ではありません。
予選と決勝の関係性
ここで1つの傾向が見えてきます。フェルスタッペンは例外ですが、基本的に上位を走るドライバーは、予選の平均順位や標準偏差が決勝よりも良く出る傾向があります。理由はシンプルです。上位で走るほど、ミスや接触による順位の下げ幅が大きくなるためです。
一方、中団〜下位を走るドライバーは、決勝で予選より順位を上げる傾向があります。これは、順位の下げ幅が限定されていることに加え、リタイアや戦略によって自然に順位が繰り上がることが多いためです。
しかし、角田の場合は異なります。予選と決勝の平均順位の差(決勝−予選)は +0.61 で、決勝では予選より順位を落とす傾向があります。さらに、決勝の標準偏差も小さく、平均13位の順位がより安定して再現されていることを示しています。この点は、角田の一貫性のなさを示す重要な指標と言えそうです。
速さと安定性は、どれだけポイントに変換できているか
ここまで見てきたように、角田裕毅は予選での一発の速さを持ち、順位のばらつきも比較的抑えられたドライバーです。数値上は「遅い」「不安定」といった評価には当てはまりません。
では、その速さと安定性は、実際にポイントという結果にどれだけ結びついているのでしょうか。ここからは、2023年〜2025年の各ドライバーについて、以下の2つの指標を用いて比較していきます。
- ポイントを獲得できたレースの割合(ポイント獲得率)
- 1レースあたりの平均獲得ポイント
これにより、単なる「速さ」や「安定性」が、実際の結果としてどれだけ反映されているかを確認します。
| ドライバー | 参戦レース数 | 総獲得ポイント | ポイント獲得レース数 | ポイント獲得率(%) | 1レース平均ポイント |
|---|---|---|---|---|---|
| マックス・フェルスタッペン | 70 | 1318.0 | 68 | 97.1 | 18.83 |
| ランド・ノリス | 70 | 922.0 | 60 | 85.7 | 13.17 |
| シャルル・ルクレール | 70 | 737.0 | 57 | 81.4 | 10.53 |
| オスカー・ピアストリ | 70 | 728.0 | 56 | 80.0 | 10.40 |
| ジョージ・ラッセル | 70 | 672.0 | 61 | 87.1 | 9.60 |
| セルジオ・ペレス | 46 | 398.0 | 35 | 76.1 | 8.65 |
| ルイス・ハミルトン | 70 | 559.0 | 60 | 85.7 | 7.99 |
| カルロス・サインツ | 69 | 494.0 | 48 | 69.6 | 7.16 |
| キミ・アントネッリ | 24 | 135.0 | 14 | 58.3 | 5.62 |
| フェルナンド・アロンソ | 70 | 319.0 | 43 | 61.4 | 4.56 |
| アイザック・ハジャー | 24 | 50.0 | 10 | 41.7 | 2.08 |
| ランス・ストロール | 70 | 121.0 | 24 | 34.3 | 1.73 |
| オリバー・ベアマン | 27 | 46.0 | 11 | 40.7 | 1.70 |
| エステバン・オコン | 69 | 113.0 | 26 | 37.7 | 1.64 |
| ピエール・ガスリー | 70 | 114.0 | 25 | 35.7 | 1.63 |
| アレクサンダー・アルボン | 70 | 107.0 | 22 | 31.4 | 1.53 |
| ニコ・ヒュルケンベルグ | 70 | 93.0 | 20 | 28.6 | 1.33 |
| リアム・ローソン | 35 | 44.0 | 10 | 28.6 | 1.26 |
| 角田裕毅 | 70 | 64.0 | 22 | 31.4 | 0.91 |
| ガブリエル・ボルトレート | 24 | 19.0 | 5 | 20.8 | 0.79 |
| フランコ・コラピント | 27 | 5.0 | 2 | 7.4 | 0.19 |
ポイント獲得データから見える角田裕毅の評価
ここまで、角田裕毅の速さ(予選)と安定性(完走率・順位のばらつき)をデータで確認してきました。最後に、最も評価に直結する「結果」、つまりポイント獲得の観点から角田を見てみます。
2023年〜2025年の3シーズンにおいて、角田の成績は以下のようになります。
- 参戦レース数:70戦
- 総獲得ポイント:64ポイント
- 1レースあたり平均ポイント:0.91pt
- ポイント獲得率:31.4%
これは言い換えると、「約3レースに1回はポイントを獲得するものの、残りの多くのレースではノーポイントに終わっている」ことを意味します。
中団ドライバーとして見た場合の立ち位置
この数値は、下位チームのドライバーと比べれば決して悪くありません。しかし、前述の「速さを持つドライバー」という前提で見ると、評価は大きく変わります。
角田の特徴を整理すると:
- 予選平均順位は12位前後
- 毎戦Q3に進出するような位置にはいないが、Q2〜Q3の境界で戦える速さはある
- 順位のばらつきも極端ではなく、一定の再現性がある
それにもかかわらず、平均ポイントは1レースあたり1点未満。このギャップが、角田の評価が割れる最大の理由です。
「速いのに、結果が残らない」構図
角田裕毅は予選でのポテンシャルを見せる場面が多く、「今日は行けるのでは?」という期待を抱かせることがあります。しかし、決勝では以下のような傾向が見られます。
- スタート順位は中団(10位前後)になりやすく、戦略の自由度が低い
- 中団の混戦に巻き込まれるケースが多い
- 1つのミスや不利な展開で、すぐにポイント圏外に押し出されやすい
結果として、走り自体は速さを感じさせるものの、リザルトとしてポイントが積み上がらない状況が続きます。
「一貫性がない」と言われる本当の理由
角田の順位は極端な乱高下を示しているわけではありません。ところが、データを「予選の速さ」と「決勝でのポイント獲得」という視点で見ると、状況は一変します。
- Q3進出率:中団勢としては標準的な位置
- 1レースあたり平均獲得ポイント:中団勢と比較すると致命的に低い
つまり、角田は予選でのポテンシャルを決勝に十分に反映できていないのです。中団で同程度の平均順位を持つドライバーの多くは、決勝で予選順位よりも順位を上げる傾向があります。しかし角田は逆に、予選での順位を維持できずに決勝では順位を落とす傾向が見て取れます。
この「予選の速さはあるが、決勝でポイントに変換できない」構造こそが、角田が『一貫性がない』と評価される根本的な理由と言えます。
| ドライバー | ① 予選 平均順位 | ② 予選 標準偏差 | ③ 決勝 平均順位 | ④ 決勝 標準偏差 | ③−① 順位差 | ④−② 安定性差 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| アレクサンダー・アルボン | 12.77 | 3.92 | 12.67 | 4.37 | -0.10 | +0.45 |
| 角田裕毅 | 12.36 | 4.02 | 12.97 | 3.78 | +0.61 | -0.24 |
| ニコ・ヒュルケンベルグ | 13.03 | 4.04 | 12.94 | 4.25 | -0.09 | +0.22 |
| エステバン・オコン | 13.62 | 4.17 | 12.70 | 4.35 | -0.93 | +0.17 |
| ランス・ストロール | 13.79 | 4.34 | 12.89 | 4.58 | -0.90 | +0.24 |
| ピエール・ガスリー | 12.67 | 4.72 | 12.77 | 4.62 | +0.10 | -0.10 |
| ドライバー | 参戦レース数 | 総獲得ポイント | ポイント獲得レース数 | ポイント獲得率(%) | 1レース平均ポイント |
|---|---|---|---|---|---|
| ランス・ストロール | 70 | 121.0 | 24 | 34.3 | 1.73 |
| エステバン・オコン | 69 | 113.0 | 26 | 37.7 | 1.64 |
| ピエール・ガスリー | 70 | 114.0 | 25 | 35.7 | 1.63 |
| アレクサンダー・アルボン | 70 | 107.0 | 22 | 31.4 | 1.53 |
| ニコ・ヒュルケンベルグ | 70 | 93.0 | 20 | 28.6 | 1.33 |
| 角田裕毅 | 70 | 64.0 | 22 | 31.4 | 0.91 |
なぜ角田はレッドブルで結果を出せなかったのか?【データからの仮説】
角田裕毅は「一貫性がない」「期待に応えられない」と評されることが多いドライバーです。しかし、これまでのデータを見ると、単純に「遅かったから結果が出なかった」と結論づけるのは適切ではありません。
ここでは、角田がレッドブルで十分な結果を残せなかった理由を、データと傾向をもとに仮説として整理します。
仮説① 予選で限界を引き出す「予選型ドライバー」の特性
角田は、データ上、予選で速さを見せる一方、決勝で順位を落としやすいタイプのドライバーです。
- 予選ではマシン本来の平均以上の順位を記録
- Q3進出は多くないものの、Q2後半〜Q3境界で戦える速さを持つ
- 決勝では予選順位よりポジションを下げる傾向がある
予選では、ドライバーの入力差が結果に直結しやすく、マシン性能差をある程度覆すことも可能です。しかし決勝では、レースペース、タイヤマネジメント、戦略などトータルでのマシン能力に順位が収束しやすくなります。
その結果、角田は「予選で上に行くが、決勝では本来のマシン順位帯に戻る」という現象が起きやすいドライバーだったと考えられます。
仮説② レッドブル特有のマシン特性とセカンドドライバー問題
角田がレッドブルで結果を出せなかった理由を、単純に個人の能力だけに求めるのは不十分です。過去のセカンドドライバー、例えばガスリー、アルボン、ペレスも、レッドブル在籍時には苦戦し、チームを離れてから評価が見直されています。
共通する要因は以下の通りです。
- マシンのピーキーさ
- セットアップウインドウの狭さ
- フェルスタッペン基準で開発された車両特性
つまり、角田がフェルスタッペンと同等のパフォーマンスを出せなかったのは、ドライバーの速さの問題ではなく、マシン特性や要求水準の高さに起因する可能性が高いと考えられます。
角田も例外ではなく、与えられた条件の中で、予選では最大限のパフォーマンスを引き出していたと見るのが妥当でしょう。
仮説③ 「一貫性がない」と見なされやすい構造的理由
順位のばらつき自体は大きくありませんが、問題は平均順位がポイント獲得の境界線上にあることです。加えて、予選順位から決勝で順位を落とす傾向もあります。
- 平均順位は12〜13位付近
- 標準偏差は約±4位
- ポイント獲得率は約3割
この順位帯では、少し噛み合えばポイント、少し崩れればノーポイントになります。結果として、
- 速さは見える
- 期待も高まる
- しかし結果(ポイント)が伴わない
という印象が蓄積し、「一貫性がない」「期待に応えられない」という評価につながっていったと考えられます。
仮説④ 本当に必要だった改善点とは何だったのか
データから導ける現実的な結論はシンプルです。角田に必要だったのは、速さや一貫性を過剰に求めることではなく、
- 平均順位そのものを押し上げること
- 決勝で順位を落とさないための戦略の安定性
です。平均順位が12位前後である限り、どれだけ安定して走ってもポイント獲得は不安定になります。一方で、平均順位が10位以内に入れば、多少ばらつきがあってもポイントは自然と積み上がります。
つまり改善すべきは、「一貫性」ではなく、平均の順位帯を押し上げることと戦略の安定化だったと言えます。
まとめ:角田裕毅の速さと課題
本記事では、角田裕毅の予選・決勝データを3シーズン(2023〜2025年)にわたって分析し、「角田は本当に遅いのか?」というテーマを検証しました。主なポイントは以下の通りです。
- 1. 予選での速さは中団でも上位クラス
角田のQ3進出率は33.3%(69戦中23回)で、中団グループの標準的な水準にあります。決して「予選で崩れるドライバー」とは言えず、予選ではマシンの限界を引き出す能力が示されています。 - 2. 決勝で順位を落とす傾向がポイント獲得に影響
中団から下位を走るドライバーは、通常、決勝で予選より順位を上げることが多いのに対し、角田は平均順位で+0.61と、決勝で予選より順位を落とす傾向があります。この傾向が、1レースあたりの平均ポイントやポイント獲得率の低下につながっています。 - 3. ポイント獲得率は中団勢に比べやや低め
速さはあるものの、決勝で順位を維持できないことでポイントに結びつきにくく、同じ中団グループのガスリーやストロール、オコンと比較するとポイント差が生じています。 - 改善のカギは「環境」と「決勝での安定感」
データから導ける結論として、角田に必要なのは、単に速さを磨くだけでなく、決勝でも上位ポイントを狙えるマシンと環境、そして決勝での安定感を高める経験の積み重ねです。これにより、予選での速さを決勝でも結果につなげられるようになり、F1で再び活躍できる可能性が高まります。
結論
角田裕毅は決して遅いドライバーではありません。予選での速さはデータ上も証明されており、チーム内でも確かな存在感を示しています。課題は、決勝で順位を落としやすい傾向と、ポイント獲得につながるマシンや戦略の環境整備にあります。
データから見る限り、角田のポテンシャルは高く、適切なマシンとチームサポート、そして決勝での安定感を高める経験の積み重ねがあれば、結果は大きく改善できる可能性があります。
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